社会福祉法人神東会
Interview
社会福祉法人神東会
地域や行政との連携で活性化した外国人雇用
EPAに基づく外国人介護福祉士候補者を採用
EPA(Economic Partnership Agreement)とは、特定の国同士が、貿易や投資、人の移動などを促進するため結ぶ経済連携協定のことです。我が国では、インドネシア、フィリピン、ベトナムとEPAを結び、介護人材の移動を促進しています。
人手不足に悩んでいた当苑では、平成29年(2017)に、初めてEPAに基づく介護福祉士候補者を海外から求人してみたのですが、国内での求人倍率は相当高いらしく、応募者は一人もいませんでした。翌年にはインドネシア人1名が応募してくれましたが、健康診断不適合にてマッチングには至りませんでした。そして、3年目の令和元年(2019)、ようやくインドネシア人2名とマッチングすることができました。その後、ベトナム人技能実習生3名、ネパール人の元留学生2名、永住権を持つ中国人1名も加わり、当苑の外国人介護職は8名にまで増えました。 しかし、外国人を介護職として採用し、彼らに活躍していただくまでの道のりには、多くの苦労がありました。
施設長兼事務局長 清水 敏幸 さん
外国人から選ばれる地域になるために
日本人と同様に、地方よりも都市圏で働くことに魅力を感じる外国人は多くいますので、中山間地にある当苑を選んでもらうために色々な工夫をしました。私どもは、少しでも多くの外国人に「神岡町で働きたい」と思ってもらえるよう、当苑の魅力だけでなく、地域の魅力も積極的に伝えるよう心掛けました。私どもが考える神岡町の魅力は、国内屈指の標高三千メートル級の山々に囲まれ、とても自然が豊かなこと。街がコンパクトで、スーパーや銀行、病院、役場などが徒歩圏内にありとても便利。都市圏と比べると物価が安く、生活しやすいこと。そして行政の支援が手厚く、安心して暮らせることなどが挙げられます。採用した外国人から、「神岡町に魅力を感じて、たんぽぽ苑で働きたいと思いました。」という話を聞いたときには、とても嬉しかったことを覚えています。
地方は採用に不利と思われるかもしれませんが、当苑では、むしろ中山間地であることを逆手にとって、メリットとして外国人にアピールしています。
利用者や日本人職員の理解を得るために
外国人を雇うに当たり、正直なところ当初は、当苑の利用者や日本人職員が彼らをちゃんと受け入れ、良好な関係を築けるのかとても不安でした。そこで、彼らが着任するよりも前から、彼らを紹介するためのチラシを作成したり、施設の広報誌「たんぽぽ苑通信」に紹介記事を掲載して、「この人たちが海外から働きに来てくれます。楽しみですねえ。」と、利用者の皆さんにアピールしました。さらに、日本人職員ひとり一人に対しても、「海外から遠い日本へたった一人で働きに来ることはとても大変です。彼らはきっと不安な気持ちで一杯です。皆で歓迎しましょう。」と繰り返し伝えました。
ところが、当初の不安を吹き飛ばすかのように、実際に彼らを迎え入れたら、我々は彼らの素晴らしさに気付かされていったのです。
外国人職員紹介チラシ
勉強熱心な外国人たち
外国人が日本の介護現場で働く場合、入国時点で少なくとも日本語能力検定N4相当の日本語能力が求められます。N4といえば、簡単な日常会話くらいは問題なくできますが、プロの介護の現場では通用しないこともあります。そこで当苑では、介護の専門用語の習得や日常会話の上達を目的に、毎週日本語教室を開催してきました。その結果、多くの外国人職員が日本語能力検定N3に合格しました。なかには、1年半でN2に合格した技能実習生もいます。
彼らは総じて勉強熱心であり、日本語を意欲的に覚えようとする者、介護福祉士の試験勉強に励む者などが多数います。そうした外国人職員の姿に刺激を受け、資格取得を目指す日本人職員が増えるなど、外国人を採用したことにより、職場全体も活気づきました。
介護職を目指す優しき外国人たち
当苑で働く外国人の母国では、日本にも増してお年寄りを大切にする文化があります。母国では、日本ほど高齢化が進んでいません。介護サービス事業者が存在しない国さえあります。したがって、日本のような超高齢のお年寄りと接したことがない職員も少なくありませんでした。
そのため、外国人の職員には、介護サービスの仕事のことを、基本から丁寧に説明して、現場で育てていく必要がありました。そうした状況のなかであっても、信念を持って介護職を目指す彼らは、強い奉仕の精神や心の優しさを持ち合わせており、誰よりも成長が早いと感じます。なかには、日本で学んだことを活かして、母国で介護事業所を起業したいという方さえいます。今は、彼らの成長を楽しみにしているところです。
(左)日本語勉強会の様子 /(右)食事の介助をする外国人職員
人口減少と高齢化が急速に進む地域
こうして当苑では、外国人介護職を無事迎え入れることができましたが、これで、この地域の課題が解消されるわけではありません。飛騨市では、平成7年(1995)をピークに人口が減少に転じており、令和4年(2022)時点で約23,000人の人口は、22年後の令和27年(2045)には、約6割にあたる約13,000人にまで急速に減少すると推計されています。また、65歳以上の高齢者の割合も、現時点ですでに約4割に達しており、なかでも神岡町は、高齢化率が46%にまで進んでいます。この地域での介護サービスの需要は、今後益々増えることが確実であり、外国人への期待も高まると考えています。
行政の幅広いサポート
人口減少と高齢化が急速に進む中山間地であるこの地域で、多くの外国人に活躍してもらうためには、行政との連携が欠かせませんでした。
飛騨市は、外国人の採用や定着に関するサポートが充実しています。例えば、雇用通訳支援、面接旅費等支援、空き家等社宅化支援、就職奨励金など様々な助成があり、私どもも大変助かっています。県内の専門学校に通う留学生を採用できたのも、飛騨市の働きかけがきっかけでした。また、市長は当苑を視察され、外国人職員と意見交換をされたこともあります。市長や担当部署の皆さんは、地元企業やそこで働く外国人職員のことをいつも気にかけてくれており、大変感謝しています。
飛騨市長と外国人職員との意見交換の様子
これから外国人材を雇用したい企業へのアドバイス
当苑では、何よりも、地域の理解と行政の支援が後押しとなって、優秀な外国人の雇用を進めることができました。地域や行政との連携は大変重要です。
それから、日本語教育に加え、日常生活のこまめなサポートや、それに伴う一定の経費などの負担が生じますが、そうした負担を上回る十分なメリットがあると考えています。負担の部分だけを見るのでなく、彼らを活用して、効率的に成果を出せる仕組みづくりを考えることのほうが大切だと思います。
また、外国人雇用を検討される際は、是非、中長期の採用計画を策定されることをお勧めします。受け入れの検討から雇用に至るまでには、一般的に年単位の時間を要しますし、受け入れたあとに現場で活躍していただくための仕組みづくりも、時間をかけてじっくり検討されたほうが良いと思います。そして、めでたく外国人職員とご縁ができた暁には、ぜひ彼らを組織全体で大切にし、その国の文化を積極的に学び、互いに理解しあう関係を築きながら、彼らが気持ちよく安心して働ける環境づくりにご尽力いただけたらと考えています。
会社概要
会社名 | 社会福祉法人 神東会 |
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企業URL | |
所在地 | 岐阜県飛騨市神岡町東町690-1 |
事業内容 | 福祉サービス業 |
従業員数 | 210名 |
外国人材雇用人数 | ネパール 2 名、インドネシア 2 名、ベトナム 3 名、中国 1名 |
※取材時点の情報となります。 |
急速に高齢化が進む飛騨市神岡町で、地域との絆を大切にしながら、特別養護老人ホームやデイサービスなどの介護サービス事業を展開している社会福祉法人 神東会 たんぽぽ苑。ベトナム、インドネシア、ネパール、中国など様々な国籍の介護職員が活躍しています。中山間地で外国人介護職の活躍を実現させている秘訣について、施設長兼事務局長の清水 敏幸様にお話を伺いました。